VANSといえばアメリカの企業という印象ですが、現在はABCマートのプライベートブランドです。プライベートブランドといえばトップバリュ(イオン)やセブンプレミアム(セブン&アイ)など”どの企業のブランドか?”明確なものが多いなか、ABCマートはその辺を曖昧なままやってきた小売店です。
ABCマートは90年代に躍進した企業ですが、きっかけとなったのが1995年にホーキンスの商標権の獲得したことです。当時は高価な印象が強かったブーツを安価で国内で販売したことで一気に売上を伸ばしました。当時は黄色い角丸スクエアの囲まれたGTのロゴがとてもかっこよく見えたのを覚えています。後のRED WINGなど”ホンモノ”っぽいブランドが広まる礎になったんじゃないでしょうか。
その一年前の1994年にVANSの国内商標権を獲得しています。ホーキンスより早かったんですよね。VANSやホーキンスのほかDANNERもABCマートが所有しています。
スニーカー好きならコンバースの件を思い起こすかもしれません。コンバースはアメリカのコンバースと国内のコンバースが別の企業というのが厄介な点で、VANSとは少し事情が違います。
ブランドの”移籍”というのはファッションやスポーツ業界では割とあることで、フランス生まれのサロモンやイタリア生まれのFILAも今では中国の企業(ANTA)です。先日発表されたアディダスによるリーボックの売却もブランドのやり取りという点で大型”移籍”ですね。
前置きが長くなりましたが、国内のVANSはABCマートが所有するブランドということです。そんなVANSがatmosとコラボする……。規模は違えどスニーカー販売という戦場でバチバチにやり合ってきた両者の関係を考えると、かなり大胆な戦略が隠されていそうです。
もちろん損をしてまでコラボするわけがないので、win-winの関係を築いていくはずです。単発のコラボというよりは挨拶がわりのコラボと言えるんじゃないでしょうか。実際、この手の同業他社というのは単にライバルと言うよりは一緒にマーケットを開拓していく仲間と捉えている側面もあります。建前や綺麗事と言うのは否定できませんが、同業他社がなくなっただけ取り分が増える、なんて単純な計算は成り立ちません。
ABCマートが多額の広告費を使ってスニーカーを宣伝すればするほどatmosも恩恵を得られます。都市部のatmosで見かけたスニーカーを地元のABCマートで購入すると言うこともあるでしょう。他にも通勤など様々なシーンでスニーカーを選ぶ現状において、選択肢の多さはメリットとなります。
これは僕の持論ですがカルチャーはマーケットに根付くというのがあります。スニーカーの背景が語られる機会も多く、バックボーンがあるスニーカーってかっこいい!というのもすごくわかるのですが、ABCマートやatmosを起点とした巨大なスニーカーマーケットがあるからこそスニーカーの持つストーリーが生まれ、語られると考えています。
ちなみにABCマートはコロナ渦で減ったとはいえ売り上げは2200億円。atmosは昨年8月期で180億円と10倍以上の差があります。10倍売ってるからABCマートが凄い!わけではなく、これだけ規模が違うということは企業の性質だけでなく客層も違うということ。同業他社だからこそお互いの強い点と弱い点を把握しているでしょう。
今回のコラボで始まるストーリーから目が離せないですね。Emojiというオリジナルの総柄が使われていますが、今までatmosが展開してきたアーカイブズも今後生かされるんじゃないかと期待しています。